相続が発生すると、人によっては相続税の納税義務が生じます。突然の相続発生に、納税資金の準備が間に合わず苦しむ人も少なくありません。この記事では、相続税の支払いや、今後の納税準備に不安がある人を対象に、相続税の納税猶予制度について、適用要件や注意点について詳しく解説していきます。
目次
1、相続税の納税猶予制度とは
相続税の納税猶予制度とは、文字通り相続税の支払い期限を延長してもらえる制度のことをいいます。相続税の計算は複雑で、人によって課税されるケースと、そうでないケースがあります。あらかじめ納税準備をしておくのがベストですが、予期せぬ相続で準備が万端ではなく、納税が困難になるケースもあるでしょう。そのような場合に適用できる制度として、相続税の納税猶予制度があります。
(1)そもそも相続税って何?
まずは基本的なことですが、相続税の仕組みを理解しましょう。
相続税とは、相続をした人が相続財産に応じて納めるべき税金のことです。亡くなった人に相続人がいた場合、残された財産が相続税の基礎控除を超える場合に、財産に応じて課される税金です。ですから、すべての人が課税されるわけではなく、課税される人、されない人に分類されます。
実際に相続税が課税されるかどうかは、税理士等の専門家へ相談して確認しましょう。
(2)相続税の納税義務者は誰?
相続税を納めるべき人、つまり納税者は相続人である個人です。なお、亡くなった人のことを「被相続人」といい、故人の親族で財産を譲り受けることになった人を「相続人」といいます。一般的な例でいえば、親子がいて、親が亡くなった場合には被相続人は親になり、財産を譲りうける子が相続人となります。
ちなみに、相続というと、個人間、親族間での問題のようなイメージがあるかもしれません。しかし、実は相続は個人だけでなく、株式会社や社団法人などの法人がなることも可能です。
とはいえ、特殊なケースを除けば、多くの場合、相続人は個人であることが一般的といえるでしょう。
(3)相続税を支払わないと罰則がある
相続税には支払い期限が明確に定められています。さらに正確にいうと、「申告期限」と「納付期限」の両方が定められています。
相続税の納税及び申告をしなくてはならない期限は、「相続開始の翌日から10ヶ月以内」です。相続は、被相続人の死亡によって開始されます。つまり、被相続人が亡くなった日の翌日を起算日として、そこから10ヶ月以内に納税と申告を済ませなくてはなりません。
(4)結論、相続税は猶予できる場合がある
相続税の申告と納付が10ヶ月以内なので、その期間中に納税するための手続きをしなくてはなりません。しかし、実際には、相続の手続きは複雑になるケースが多く、10ヶ月で終わらないことも多々あります。また、手続きをなんとか完了しても、納税資金の準備が間に合わないという事態もありえます。
「相続財産があるならそこから納税すればいいよ」と思う人もいるかもしれませんが、相続財産は現金だけとは限りません。不動産や動産を相続した場合でも、その財産の評価額によって現金で納付するのが基本ですので、納税資金は手元のお金からとなります。
納税額が多額になることもありますので、納税のための現金が手元にない人は特に、相続税の猶予制度を活用すると良いでしょう。
2、相続税の納税猶予ができる要件と手続き方法
相続税の納税が猶予されれば、時間に余裕をもって納税資金を準備できます。しかし、誰でも手続きなしに簡単に猶予をしてもらえるわけではありません。納税猶予が可能なのは、要件を満たした一部の人が、正式な手続きを踏んだ場合のみです。
ここでは、納税猶予に必要な要件と手続き方法を解説していきます。
(1)相続税が猶予できるのはどんなケース?
相続税の猶予ができるケースは限られています。たとえば、下記に挙げる相続において納税猶予ができる可能性があります。
・農地の相続
・山林の相続
・医療の継続に係る納税猶予
・非上場株式の相続
上記のような、換金性の低さや事業に関わるものに関しては一部のケースで相続税の納税猶予が認められています。なんでもかんでも納税猶予ができるわけではないので注意しましょう。たとえば、換金性の高い上場株式は簡単に売却でき現金化できますので、納税猶予の対象にはなりません。
ちなみに、国税庁が発表した統計データをみると、平成27年度の相続では、全体で60,012百万円が納税猶予を受けていることが分かります。そのうち、全体の約73%に該当する43,969百万円は、「農地の相続」による相続税の猶予でした。
ここからは、猶予の全体数が多い「農地の相続税猶予」について解説していきます。
(2)農地の相続税猶予に必要な要件と、必要書類
農地の相続税猶予で必要な要件は下記の通りです。被相続人と相続人にそれぞれ要件があり、要件を満たさないと納税を猶予してもらうことができません。具体的な要件を表にまとめましたので、それぞれ該当するかどうかを確認してみてください。
被相続人の要件 |
次のいずれかに該当していること ・亡くなる日まで農業をしていたこと ・農地などを生前に一括贈与したこと ・亡くなる日まで相続税の納税猶予を受けていた相続人または生前に一括贈与の適用を受けていた受贈者で、疾病や障害などの理由によって自分の農業のように供することが困難なため、賃借権等などによる貸付をして、税務署長に届出をしたこと ・亡くなる日まで特定貸付などを行なっていたこと |
相続人の要件 |
次のいずれかに該当すること※被相続人の相続人であることが前提 ・相続税申告期限までに農業の経営を始めて、その後継続して農業の経営を行うことを認められること ・農地などの生前の一括贈与の特例を受けた受贈者で、経営多譲年金の支給または特例付加年金を受けるために、農地などについて法定相続人の1人に対して使用貸借権を設定して、農業の経営を移譲して、その届出を税務署長にしたこと ・農地などの生前の一括贈与の特例を受けた受贈者で、営農困難時貸付をして、その届出を税務署長にしたこと ・特定貸付などを相続税申告期限までに行なったこと |
(3)税務署へ必要書類を提出する
特例を受けるためには、期限内に相続税申告書に定められた内容を記載して提出することと、利子税の額と農地等納税猶予税額み見合うだけの担保提供が求められます。申告書には一定の書類(担保関係書類や納税猶予に関する適格者証明書)を添付してから申告します。
(4)猶予手続きと継続には期限があります
納税猶予の手続きは、相続税の申告同様、相続発生の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。また、猶予期間中の間も3年ごとに、継続して猶予の特例を受ける旨、また、特例農地等に係る農業経営に関する事項等を記載した届出書を提出しなくてはなりません。
3、相続税を猶予するより事前の対策が肝心!
ここまで解説してきたように、一定の要件を満たすことで、相続税の納税は猶予してもらえます。しかし、納税猶予というのは、あくまでも猶予という一時的な手段に過ぎず、いつかは支払わなくてはなりません。そのため、相続税についての根本的な解決とはいえません。
相続税の問題を解決するためには、納税猶予ではなく根本的な相続対策が必要です。
(1)猶予はあくまでも猶予、相続税は減りません
納税猶予というのは支払い期限の猶予ですので、支払う時期を延長してもらっている状況に過ぎません。つまり、相続税自体は減っていないので何の対策にもなっていないということです。相続税を節税するには、相続が発生してからでは遅過ぎます。相続発生前に有効な対策を実施しないと、発生後にできる対策はほとんどありません。
(2)相続税を上手に対策するには
相続税の対策は生前に行うのが基本です。それも早ければ早いほど良いです。特に相続対策で有効な「贈与」についても、亡くなる3年前までに行われたものは「無かったもの」と判断されてしまうことがあります。つまり、相続税対策として贈与を行っても、その贈与はなかったものとなり、相続財産とされてしまうのです。ですから、相続対策は早ければ早いほど効果が出やすいのです。
(3)相続対策は、相続対策専門士にご相談を
相続税の納税には猶予制度があります。しかし、すべてのケースで猶予が認められているわけではありません。また、猶予されるための要件も決して簡単ではありません。猶予の要件確認や申請方法、申請手続きについては、できるだけ早期に専門家へ相談するのが得策です。また、相続税の納税猶予は、あくまでも一つの納税対策にすぎません。相続全体を考えると、相続発生前から対策をとっておくのが賢明といえるでしょう。
相続対策専門士※は、相続の「納税・分割・節税」という3つの切り口から、最適な相続対策をご提案します。相続税の猶予でお悩みの方は是非一度ご相談ください。
弊社へのご相談はこちらから
※正式名称:不動産コンサルティングマスター相続対策専門士
まとめ
相続税には納税猶予制度があります。上手に使えば、納税期限を延ばしてもらえるので、納税資金の準備を無理なく進めることができます。ただし、納税猶予制度は適用できる要件が限定的で、すべての人が適用できるものではありません。
いざ相続が発生してから慌てて納税資金を準備することがないように、相続が発生する前から計画的な相続対策を実施することをお勧めします。
高野 友樹(不動産コンサルタント)
最新記事 by 高野 友樹(不動産コンサルタント) (全て見る)
- 初心者向け不動産投資の基礎知識とメリット・リスク - 2024年9月14日
- 【賢い資産運用】不動産投資を活用した節税の手法 - 2024年5月11日
- 不動産投資でマイナス収支にならないための基礎知識 - 2023年11月11日